Sideロックオン







昼食を食べた後、カプセルに入って40分間の細胞活性治療を受ける。



だいぶ身体の調子を取り戻してきたとはいえ、4ヶ月間のブランクは大きい。

ちょっとした作業――例えば普通の食事であってもすぐに疲れてしまうし、リハビリをしているのだがいまだに独りでは立てない。




時間の感覚も曖昧だ。

カプセルの中に入って少し眠ったと思ったら、すでに40分間の治療は終了していた。

寝台に寝そべったまま、片足に力を入れてみる。

「……よい、しょ……っと…。」

太ももの筋肉に意識を集中し、膝を立てる。

そしてまた伸ばす。

膝の関節がボキボキ音をたて、足首に鈍い痛みが走った。

「っう……ッ!、いってーなー、こんにゃろ。」


曲げ伸ばし運動を片足ずつ交互に繰返す。

とてもゆっくりとした動きでも、5分も続けていると息がきれてきた。

バスローブがじっとりと汗を吸って居心地が悪い。





カプセルのコントロールパネルで全身洗浄機能を選択し、バスローブを脱いで自動のシャワーを浴びる。

汗で張り付いた髪の毛はシャンプーされてきちんと乾かされ、身体の隅々まで心地よい水流で洗われていく。

さすが最新式の医療用カプセルだ。

「刹那に感謝だな。」

どうやって手に入れたのか、と尋ねてもいつも口を濁してしまうのだが。










さっぱりとしたところで、刹那がいつも用意してくれている洗い立てのバスローブに腕を通す。

まだ午後2時だ。
再び少しだけ睡眠をとろうと、まぶたを下ろした。








短い夢を見た気がする。

目が覚めてカプセルを開けると、寝室の空気はひんやりと冷えていた。

冬の日差しが傾き始めている。

「……もう4時、か。早いな…。」





そろそろ刹那が夕食の支度に取りかかるのだろう。

水色のエプロンをキュッとしめて、難しい顔で台所に立つ愛し子の姿が目に浮かぶ。

「よし、もういっちょやるか!」

関節は痛むが、頑張ってくれている刹那を思うだけでやる気が湧いてくる。



夕食に呼ばれるまでの間、リハビリに励もうと自力で身体を起こした時、

「ん?なんだこの匂い。」


何かが焦げる匂いが漂ってきて、

ガシャーンッ!!

「うわぁあっ!!?」

金属の落ちる音と刹那の声。




「刹那!?」

あの刹那が声を荒げるなんて珍しい。

もしかしたら、鍋をひっくり返して火傷を……?



不安が募り、カプセルの隣にあった電動車椅子を手繰り寄せる。

自力でなんとかそれに乗り、急いで寝室を出た。









広々としたリビングに、電動車椅子を走らせる。


「刹那っ!?どうした!?」

「ロッ、ロックオン……。」


台所からひょっこりと顔だけ出した刹那。

「何があったんだ?怪我はないか?」

「あっ!駄目だ、ロックオンは来るなっ!」

「え?」







寝室を出てから一段と強く充満する、何か甘いものが焦げる匂い。


「……刹那、お菓子作ってんのか?」

「どうして分かったんだ?」

刹那が目を丸くする。


「お、やっぱり?……何作ってんだ?」

ワクワクしながら台所に入ろうとしたところ、腕を広げた刹那から阻まれてしまった。


「だっ、駄目だ!入ってくるな!」

「なんだよー、見せてくれたっていいじゃねーか。」

「いっ、今は駄目だっ!………5分でいいから、リビングで待っていてくれ。」

すっかりあわてながら台所を隠そうとする刹那が可愛くて仕方ない。



「分かったよ。……それより、怪我は?」

「していない。」

「火傷だったら、服の上から水で流すんだぞ?」

「大丈夫だ。生地が崩壊したからびっくりして大声が出ただけだ。」

「そうか。なら良かった。」


ホッとして車椅子をリビングに戻すが、

「…………“崩壊”?」


まあ、爆発よりはマシか、と苦笑しつつも、胸の内にわずかに沸いた恐怖感はぬぐえなかった。












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