言葉通り、5分きっかり経って刹那が台所から出てきた。 「……待たせてすまない。」 テーブルにコトリと置かれた小皿。 その上には、添えられてたデザート用フォークと、切り分けられた小さな小さな黒い物体がちんまりと乗っていた。 焦げくさい匂いの中に微かにチョコレートの香りも混じっているので、焼き菓子であることはまず間違いない。 刹那の顔を見上げなくても、不安気にこちらをうかがっているのが分かる。 緊張した視線が背中に突き刺さって、痛い。 「お、チョコケーキだな?」 努めて明るい声をあげる。 反応がない。 ……え?俺、間違えた?いやいや、だってまさか。羊羮には見えないし…… 恐る恐る見上げると、刹那は気まずそうな顔でうなずいた。 「……まあ、その類いのつもりだったんだが……」 「スゲーじゃねーか、刹那!」 ホッとして笑う。 良かった。刹那を傷付けなくて。 「チョコレートは扱いが難しいって言うしな。スゲーよ刹那。うん、スゲー。」 フォークで小さなその欠片を刺し、覚悟を決めて口に含む。 こんがり焼けたチョコレートのビターな風味が口いっぱいに広がる。 匂いから想像していた程は焦げていないし、ナッツ――これは胡桃だろうか――の歯ごたえも良い。 なかなかイケる。 「刹那、これ美味いよ!」 「ほ、本当か!?」 「ああ。ビターチョコレート使ったんだろ?甘くなくて、大人向けだな。こんなの作れるなんて、やっぱり刹那はスゲーよ!」 ニカッと笑いかけたのに、刹那は困ったように目をそらした。 「……ミルクチョコレートを使った、ブラウニーのつもりだったんだが…。」 「え!?」 「“串を刺しても生地が付かなくなるまで焼く”、と書いてあったから、何度も確認しながら焼き続けたんだが……。」 バターやチョコレートでベトベトのエプロン。 「生地がもともと茶色だから、焼き加減が分からなくて……。最後に串を刺して確認した時は、生地がボロボロになって崩壊したんだ……。」 髪の毛にまでついた焦げカスが、その凄まじい戦いっぷりを壮絶に物語っていた。 「…真ん中の部分だけはあまり焦げてなかったから…、かろうじて食べられるのはその部分だけだ。」 それでこんな小さく切り分けられいたのか、なるほど。 一口で空になった皿を、二人で見つめる。 「……やっぱり苦かっただろ。」 「そんなことないって!これはこれでなかなか…」 「無理しなくていい。」 申し訳なさそうに肩を縮める刹那。 いつもは強気な眉尻がしゅんと垂れていて、どうしようもなく愛しさが募る。 ヤバい。 本気で可愛い過ぎる。 「刹那、ちょっと。」 ちょいちょいとエプロンを引っ張ると、素早くかがんで目線を合わせてくれる。 「どうした?ロックオン。何か飲み物を…んっ!?」 すかさず刹那の頭に手を回して引き寄せ、薄く開いた唇に深く口付ける。 「んッ……っぁ、…ロッ……んぅう…。」 舌を挿し込み歯列をなぞり、口蓋の奥の軟らかい部分を舌先で刺激する。 「っふ、……ん、んぁ、ぁああん…」 まだ心肺が回復していないので、呼気を奪うような激しいキスは出来ない。 だが、刹那にとっては逆にそのほうがヨかったようだ。 急なキスに驚いていた瞳が、あっという間にとろんと蕩け、今度は刹那のほうから舌を絡めてきた。 「んぅ……、ぁぁん……。」 緊張の消えた従順な口内に、自分の唾液を送り込む。 まだ拙い幼い舌をキュッと吸引すると、刹那の身体が震えた。 クタッと力が抜けて、車椅子のひじ掛けにしがみつく。 「………………やっぱり、少し苦い…。」 久しぶりの情熱的なディープキスの後、固く抱き合いながら余韻にひたる。 刹那は膝立ちの体勢なので、車椅子に乗っている俺よりも目線が低い。 ちょうど、二人とも立っている時のような角度だ。 「確かにビターだけど。……でも、これはこれでなかなかイケるだろ?」 唇から垂れる唾液を舐めとる。 「…………ん。」 照れたように頷くその額に、音をたててキスを落とした。 「刹那の分、無いんだろ?」 「ああ。あの部分以外は焦げて崩れてしまったから…。」 「ごめんな。俺だけ食べて。」 「いい。さっきので味が分かった。それに…、」 ふわりと空気が揺れた。 「ロックオンのために、作ろうと思ったから。」 俺は、その柔らかい笑顔を見て、不覚にも涙が出そうになった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |