その夜、刹那が夕食の後片付けをしていると、車椅子に乗ったロックオンが台所に入ってきた。 「後片付け、任せっきりでごめんな。」 「問題ない。……何か飲むか?」 皿洗いを中断し、エプロンで濡れた手を拭く。 「いんや、大丈夫だ。お構い無く。」 ロックオンは電動車椅子を器用に操り、冷蔵庫の前に移動する。 見ると、膝の上にマジックペンを一本乗せていた。 「………ロックオン?」 「せっかくだから、書き込んでおこうと思ってな。」 ペンのキャップを口に食わえ、キュポッと引き抜く。 そんなたわいもない動作でさえ様になっていて、刹那は思わず見惚れていた。 「お、さっすが日本。」 2月のページをペラリと持ち上げると、その下のページに何か書き込み始めた。 「刹那。ホワイトデーが日本特有のイベントだって知っていたか?」 「そうなのか?」 「ああ。日本人っていいよな、イベント大好きで。」 キュッキュッとペンを走らせる小気味良い音が響く。 「……よし、っと。」 ペンにキャップを嵌めたロックオンは、にやりと笑って書き込んだページを見せた。 3月14日の欄には、もともと印刷されいたピンク色の「W・D」の文字。 そして、それを塗りつぶすかのように書き込まれた 『刹那とお菓子作り』 という手書きの文字。 恥ずかしいくらい盛大に、14日の枠いっぱいに書き込まれている。 「……他のものが書けない。」 「あ、ほんとだ。ハハハッ!わりいな。」 全く悪びれた様子もなく笑うロックオン。 「いやー、気合い入れようと思ってさ。目標があるほうがリハビリも燃えるってもんだろ?」 「燃えるのはいいが、あまり無理をするな。」 「りょーかい。」 軽く受け流してしまう。 これじゃいけない。 念を押しておかなければ。 「これは真面目な話だ。頑張り過ぎて身体を壊したら本末転倒だろう?」 「分かってるってー。せっちゃんは心配性だなぁ。」 にへらと笑った彼の目は、やる気に満ちている。 助言の効果はなさそうだ。 「ハァ……」 「あー!刹那、今ため息ついたな?幸せ逃げちまうぞー?」 「……あんたが無理しなければ、俺はそれだけで幸せだ。」 「っっ……!!せっ、せつなっ、もう俺、死んでもいい!」 「簡単に死ぬな、バカロック。」 身をかがめて、車椅子の上の彼の肩にそっと腕をまわす。 彼も刹那の腰をぎゅうぎゅうと抱きしめ返してくる。 ……上半身の筋力はずいぶん回復したようだ。 あとは、足腰。 これからはたんぱく質重視のメニューにしなければ……。 熱い抱擁を返しながら、刹那は今後の献立を頭の中で組みたてていた。 ―END― <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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