寒さが幾分か和らぎ、暖かい日が少しずつ増え始める。

枯れた田舎の情景に、白い梅の花が際立つようになった。

ロックオンが目覚めてから一ヶ月が経過していた。






毎朝起きて まずやる日課は、ロックオンの足のリハビリ。

刹那が懇切丁寧にマッサージを施した後、膝の曲げ伸ばしを補助する。

弱った筋を揉みほぐし、土踏まずを適度に刺激する。

リハビリとは言えど、1日の最初の共同作業だ。

何の躊躇いもなく堂々と触れ合えるこの時間、ロックオンだけでなく刹那までも とても心が満ち足りて穏やかになるのを感じていた。










しばらくの後、刹那は台所で朝食を準備する。

あの刹那の手作りアイリッシュシチュー以来、ロックオンの胃腸は順調に回復していた。


「ロックオン、パンとライス、どっちがいいか?」

「そーだな… じゃあ、刹那がいい。」

「……俺は真面目に聞いているんだが。」

本当にクソ真面目に答えてきて、いっそ笑える。


「ごめんごめん。ご飯、炊いてるんだろ? じゃあ、刹那特製のお味噌汁がいいな。」

「分かった。」






水色のエプロンを着けながら頷く姿が、ロックオンは好きだった。

じんわりと胸に灯る幸せを噛みしめる。

だが、のんびりしてもいられない。


「……さて、俺も頑張らねーとな。」


すっかり心配性になった刹那が見ていない時間は、有効に使わねば。












部屋中に張り巡らされた手すりにしがみつき、ゆっくりと足を踏み出す。

4ヶ月間全く使っていなかった両足はイメージ通りに動いてくれない。

しかも、持久力がかなり落ちているせいで、5分も続けていると、息が切れてしまう。

朝食を持ってきた刹那は、いつも汗だくのロックオンに首をかしげるのだった。








急な酷使のせいで、ズキズキと間接が痛む。


「とりあえず、早く歩けるようにならねーと。」


膝をさすりながら、フゥ と息を吐く。

「…よし、もういっちょやるか。」










刹那が家事に勤しんでいる間や買い出しに出ている時を見つけては、ロックオンはリハビリに励んだ。

その甲斐あって、1週間後には手すりに掴まりながらではあるが、独りで歩く事ができるようになっていた。








その日の昼下がり。

「ロックオン、ちょっとエクシアの様子を見に行ってくる。」

「りょーかい。気をつけてなー!」

刹那が家を出た隙に、ロックオンはベッドから降りて車椅子に掴まる。

ふらつく足首に意識を集中させ、一歩ずつ踏み出していく。

寝室を出てリビングを横切り玄関の手すりに掴まった時、ちょうど刹那が戻ってきた。




「…………………ロック…?」




……今まで立つことすらままならないと思っていたのに。

玄関まで自分の足で歩いてきたと言うのか……




目も口も丸くぽかんと開けて、刹那は言葉を失った。



「刹那、見ろよ。だいぶ歩けるようになったぜ。」


予想通りの刹那の反応。

気を良くしたロックオンは、手すりに掴まっていた手をつい離してしまった。

とたんに膝がカクンと折れ、足元がよろめく。


「ロックオンッ!」



慌てて刹那は駆け寄った。

腕を広げて傾いた長身を支える。


「あー。わりいな、刹那。びっくりさせようと思ったんだが……、悪いほうにびっくりさせちまったな。」

刹那に肩を支えられながら椅子に座らされ、ロックオンは苦笑する。


「……そんなことない。びっくりしたし、嬉しかった。」

刹那が柔らかく微笑む。

「ロックオン、いつの間に歩けるようになったんだ?」

「今日、ようやく。」

「……俺が見ていない時に無理していたんじゃないだろうな?」

ジト とねめつけられる。

刹那に嘘はつけない。



「……………いやー、まあ、少しだけな。」




気まずい沈黙が流れる。




ロックオンが見上げると、刹那はいつも通りの無表情。




いや、いつもよりさらに無表情なので、全く思考が読めない。



「…………ロックオン。」

「…ハイ、」

「無理に歩いて、足を痛めでもしたらどうするんだ?」

「……ゴメン。」

「ただでさえ骨密度が落ちているんだ。今みたいに転けそうになったら、関節を損傷するかもしれない。骨折の可能性も考えなかったのか?」

「……スミマセンデシタ。」




ハァ、と刹那はため息を吐いた。





……喜ばせるどころか、呆れられてしまった。
あーあ、失敗。

残念に思っていると、ふわりと空気が和らいだ。


「………刹那?」


見ると、刹那がふんわりと微笑んでる。

「無理はいけないが……、頑張ったんだな。ロックオン。」


刹那はクッと背伸びをすると、ロックオンの頭にポンと手を置いた。


「歩けるようになってくれて、嬉しかった。」


よしよし、と幼子をあやすように撫でられる。

25になろうという大人が、8つも年下の少年にナデナデされている。

確かに変な気分だが、ロックオンは不思議と心が安らぐのを感じた。


「……ロックオン。ありがとう。」

「どうして刹那が礼を言うんだ?」

「…………さあ。なんとなく。」

「フフ。なんだそれ。」



刹那の細い腰に腕をまわし、撫でやすいように刹那を引き寄せる。

とても温かい時間が、二人を包んでいた。














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お詫び。原因不明のエラーで、このページが切れて原稿も失ってしまったため、2/23 8:58に書き直しました。内容が以前とは少し違ってしまい、申し訳ありませんでした。



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