刹那に腕を借りて、ベッドから起き上がる。 はだけたバスローブを直そうとした時、赤いものが視界に映った。 「………？」 胸元に、何か赤い斑点のようなものが見える。 ちゃんと確認しようとバスローブをくつろげると、刹那がビクッと身体を堅くするのが伝わった。 「…なっ……!?」 自分の胸元に数多く残された鬱血痕。 さらに目線を落とすと、首筋にも無数の赤い華が続いているのが見えた。 「……これ………。」 自分で見てもひどくイヤらしい光景に、ロックオンは絶句した。 やらかした犯人はベッドの上で体操座り｡ 抱え込んだ膝に顔を埋めて羞恥に耐えている。 唯一露出した耳が、これでもかというほど真っ赤だ。 小さな背中をさらに小さく縮め、わずかに震えている。 「……刹那、」 出来るだけ優しい声で呼び掛けると、刹那はそろー、と顔を上げた。 前髪の隙間からロックオンの表情をうかがう瞳は、不安でいっぱいだ。 とりあえず刹那を安心させようと、ふわふわした黒髪に手を伸ばした時、いきなり刹那が叫んだ。 「かっ……！！」 「『かっ』……？」 「蚊がいたんだ！」 ……なんて苦し紛れの言い訳だろう。 ロックオンはプッとふきだした。 「アイルランドにはいないかもしれないが、日本には蚊が生息しているんだ！」 「……まだ２月なのに？」 「も、もう３月だ！」 顔で湯が沸かせそうなほど顔を真っ赤にして、それでもなお自分の仕業だとは認めることができないのだろう。 まあ、刹那の性格を考慮すると、今回のコレはあり得ないような行為なわけで……。 仕方ないかな、とロックオンは苦笑した。 「じゃあさ、これは？」 肩にくっきりとついた歯形を指差す。 「これも……『蚊』の仕業、かな？」 「そ、それは…………、ネズミだ！」 あまりにも無茶な答えに、ロックオンは我慢できなかった。 盛大にふきだして、そのままヒイヒイと腹を抱えて大笑いした。 「そいつぁ、カピパラサイズの大ネズミだなぁ。」 「…………そうだ。」 刹那も馬鹿じゃない。 無理な回答だという自覚はあるらしく、それでも強気な表情を崩すまいと唇を噛みしめている。 精一杯な仕草が可愛くてたまらなくい。 ロックオンは刹那の水色のパジャマをクイッと引っ張った。 「そんな大きなネズミ君は、野放しにしておくと大変だ。」 掛け布団をフワリと広げて招き入れると、刹那も大人しくロックオンの腕の中に収まった。 同じ枕に頭を横たえて、見つめ合う。 「ごめんな、刹那。」 刹那にこんなにも求められたことは嬉しいが、同時に、ちゃんと応えてやれなかった自分が悔しく感じた。 「寂しい思いさせて、ごめん。」 「ロックオンは怪我人だ。こんなことをした俺が、どうかしていた。」 刹那は、ロックオンの胸板を指でなぞった。 その白磁の肌には、己の行為の痕跡が無数に広がっている。 「……一つ、聞いていいか？」 「なに？刹那。」 「ロックオンは……、」 言いかけた刹那は、ためらって視線をさ迷わせる。 「……ロックオンは、俺のことを欲しいと思うか？」 精一杯出した声は、わずかな吐息にも消されそうなくらい小さい。 いったいどのくらいの思いで、これを尋ねたのだろう。 どのような気持ちで、この痕をつけたのだろう……。 刹那の気持ちを考えると、胸がギュッと締め付けられる。 「欲しいよ。」 ロックオンは、誠心誠意こめて言葉をつむいだ。 「刹那のこと、欲しいよ。抱きたいと思うよ。」 「……ロック…、」 「ほんと、寂しい思いさせて、ごめん。」 思いの丈全部こめて、刹那の頭を抱き込んだ。 刹那の温度がじんわりと胸に伝わる。 「…でもな、今の俺は身体も満足に動かせない。体力もない。こんな身体じゃ、刹那に嫌われてしまうかもって思っ…」 「そんなわけあるか！バカロック。」 大地色の瞳から、ギッと睨み付けられる。 なかなか鋭い視線だったが、ロックオンにはとても愛しく感じられた。 「……そうだな、ごめん。でも、今の俺には刹那を最高に気持ち良くさせてやる自信はないんだ。」 かつての快感を思い出したのか、刹那の身体がぶるりと震えた。 「……じゃあ、あんたが回復するまで待ってやる。」 「いいのか？」 「ああ。だから早く寝ろ。」 刹那の小さな手が、ロックオンの目蓋をおおった。 視界を奪われたロックオンは、愛し子の照れ隠しの行為にクスッと笑みをこぼした。 「早く寝て、早く良くなれ。それまでは待ってやるから。」 抱きしめた子ども体温が心地よくて、すぐに睡魔が再び襲ってくる。 「あんたが手を出してこなかったから、少し怖かっただけだ。俺があんたを嫌うなんて、あり得ない。」 刹那の声を聞きながら、フワリと意識をただよわせる。 久しぶりに最高の夢をみれそうだ。 「おやすみ、ロックオン。」 意識を手離す瞬間、唇に温かいものを感じた。 そして、ロックオンはまた深い眠りに落ちた。 ＜＜重要なお知らせ＞＞@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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