地球に降りる前に、今の詳しい世界情勢が知りたかったので、身分を隠しながら数々の衛星施設やコロニーを巡った。

しかし、民間企業のものばかりだったので、軍や政治の裏側はほとんど見えてこなかった。


そうして2週間ほどたった後に、巨大なコロニーに着いた。
ユニオンのものだ。


ガンダムを、廃棄された衛星の陰に隠し、技術者の群れに紛れ込み、コロニーの内部へ侵入した。













人々の噂や民間のマスコミからの情報だと、世界は確かに大きく動き始めているようだ。



しかし、再び歪み始めている。
そう直感した俺は、空軍の総合施設へ行った。



あまり深く入り込んで危険を冒す必要はない。


空軍病院のフロアで見舞いに来た民間人を振る舞いながら、リハビリ中の軍人と雑談をして情報を得る。

こういう時に、磨きあげられた擬似人格は非常に役に立つ、と実感する。



「カマル君、今日もお父さんのお見舞い?いつも偉いわね。」

「うちは母が忙しくて来れないので、代わりなんです。」

「他の患者さんの花瓶の水も変えてくれてるんでしょ?ほんと、偉いわぁ。」

「今度学校で、ボランティアについて作文を書かなくちゃいけないので……。」

「あらぁ、そうなのーー。でも、あんまり病院内をうろちょろしちゃだめよ?」

「は〜〜い!!」



空返事は元気よく。
この看護師の目に
、俺はいったい何歳くらいに映っているのだろう。
設定はジュニアハイなのだが。






今日、俺はこの病院で最も怪しい通路を探索する予定だ。
何の変てつもないこの通路の病室には、1週間俺が観察する限りでは、見舞いの客が全く来ない。
不自然だ。






通路の監視カメラの死角をチェックする。

この病院の警備はそこそこ充実しているが、隙はたくさんあった。


病室のドアについているネームプレートには、なにもプリントされていない。

囚人の患者でもいるのか……?










医療スタッフの気配が完全に消えたので、俺は通路の一番端の病室に入った。

常套句の、「パパの病室はここかなぁ?」も忘れずに。

しかし、病室の中の患者は、誰独りとしてそんな俺を怪しむ者はいなかった。









その狭い病室には、20台近い安っぽい医療カプセルがズラリと並んでいた。



全員、重症のようだ。意識のある人は誰もいない。

無造作に身体に突き刺されたチューブが痛々しい。
最低限の延命治療しか施していないようだ。

この部屋には監視カメラすらついていなかった。







そして、その列の奥から二番目に、

“彼”が居た。



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