「こら!刹那!!」


普段は優しい音色が、何故か怒っているように聞こえる。



「お前、なんで床の上でそんな薄着で寝てんだ!!」



長い腕が、俺を引っ張り起こす。


「あ〜あ、こんなに身体冷やしちゃって……。」


ふわっと温かいものに包まれる。

気が付くと、俺はロックオンのジャケットの中で抱きしめられていた。




「寒かっただろ?何か飲むか?
……そうだ、刹那、熱いシャワー浴びてこい。その間にホットミルク作っておいてやるから。」



温かい彼の胸板から、確かに彼の鼓動を感じる。
俺は、黙って頷いた。




「それにしても、真冬に暖房もつけず、床で寝るなんて……。アイルランドだったら凍死するぞ?宇宙ボケしたか?」



優しい翠碧が俺を覗き込む。




「刹那、頼むから自分の体を大切にしてくれ。
………なんでこんな無茶したんだ?」




ぎゅっと温かく抱きしめられる。

心底心配している彼の掠れた甘い声。





俺は、本当に申し訳なく感じて黙り込んだ。




本当に、俺はなんで床なんかに寝ていたんだろう……。

……そう、確か昨日は、ロックオンのカプセルの電源を家のコンセントに移したんだ。

それで、つい安心して、カプセルが温かくて………………。














ハッと俺は目を開けた。


視界に飛び込んできたのは、木目調の薄暗い天井。


思考に戻ってきたのは、昨日大気圏を突破してから南関東のこの一軒家に落ち着くまでの俺の行動。









俺は、起き上がろうとした。

が、真冬の冷たい床の上で寝ていたため、体が痺れて動かない。


視線だけ横にずらすと、カーテンも何もない窓から、淡い日の光がぼんやり差し込んでいた。


現在1月で北半球だから……だいたい午前7時くらいだろうか。





俺はいったいどのくらい寝ていたんだろう……。
















幸せな夢を見ていた。



ロックオンが、俺を叱ってくれた。

温かい腕で優しく抱きしめてくれた。


また目を閉じれば、今度はホットミルクも淹れてくれるのだろうか……。









俺は、再びハッと瞼を上げた。




そうだ。ロックオンは夢の中にはいない。


だけど、今、この部屋のカプセルの中で眠っている。

死んだと思った彼を見つけて、無事に救出できたんだ。




そう思うと、俺は心臓のあたりがほっこりと温かくなるような気がした。
















俺は、冷え切った首を無理やり動かした。

次いで腕、肩、腹筋。


なんとか上半身の感覚は取り戻せたが、足はまだ痺れていて、立てなかった。


仕方なく、俺は部屋の真ん中に安置したカプセルまで這いずった。








カプセルの外壁にぺたりと体を寄せる。

この寒い室内でも、この精密機械は順調に稼働していて温かい。


頬をくっつけると、安定した稼働音が響いてきた。



……まるで、夢の中のロックオンみたいだ。



でも、今確かにこのカプセルの中で、ロックオンは生きている。

ちゃんと自分の心臓で脈を打っている。




たとえまだ、意識が無くても、いつかきっと、いや、絶対目覚めて温かい抱擁をくれるから。













冷え切った身体が少しずつ温まる。


ようやく力の入った足で立って、ガラスケースを覗き込む。



朝日に照らされた彼の寝顔は、病院で見た時よりも安らかだ。



「おはよう、ロックオン。」



まだその翠碧は見えないけれど。



「今日は晴れたぞ。」






唇を押し当てたガラスケースは、内部の気温が一定に保たれていることを伝えてくれた。











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