0840。 早朝から出入りの激しかった保管庫は、ようやく静けさを取り戻した。 夜勤の交代や医薬品の補充はだいたい終わったのだろう。 俺はほっと息を吐いた。 じっと隠れているだけ というのは、案外きつい。 万が一見つかってしまったら全てが終わる。 息をころし身を潜め、じっと耐え続けたため、精神力をかなり削られた気がする。 俺はもっとハードに体を動かす任務のほうがむいているのかもしれない。 物陰から身を伸ばし、朝食用に取っておいたりんごに噛み付く。 爽やかな酸味が身体中に染み渡って、疲れが癒えていく気がする。 念のため、ハックしておいた事務室のサーバーを端末で確認する。 最新式の納品は予定どうり行われるようだ。 0910。 保管庫の扉が大きく開いて、一斉に人が入ってきた。 病院関係者、医師、メーカーの担当者。 そして4、5人の業者がカートに乗せた医療用カプセルを運び込んで来る。 俺は部屋の奥の物陰に身を潜め、じっと様子をうかがった。 「これが、最新式ですか……。」 医師の1人が一台だけ梱包材が外された最新式を眺めて呟く。 「はい。我が社が5年間で徹底的に安全性、効率性を試験し、治療期間の短縮化を目標に開発したものです。」 「治癒速度が従来の3倍とカタログにありましたが………。」 「はい、そうですよ。多少個人差はありますが。 性能テストでは半数近い患者様が予測された3分の1というきわめて短期間で完治なさいました。」 「それは素晴らしい!」 「この最新型は、患者様の容態にすばやく対応できるよう、高感度センサーを全体につけております。 赤外線治療の範囲と時間、カプセル内の気温、湿度、酸素濃度などを自動調整して、常に最も適切な状態に保つことが可能です。 ですから、無駄のない効率の良い治療により、治療期間の大幅な短縮に成功しました。」 「ソレスタルビーイングの騒ぎで患者が急増してね、ベッド数に余裕がなくなってきているので、早く退院して貰えると助かりますねぇ〜。」 「省エネ機能も充実しておりまして。従来の3分の2の電力しか消費しません。 もし緊急にコロニー内の電力がダウンした場合でも、最大48時間はバッテリーで従来通り稼動します。 重力システムがダウンした場合でも最新鋭の自動Gセンサーで一定の重力を保てます。 勿論、宇宙船対応型です。 衝撃も内部に伝えずに快適な治療を続けられます。」 「ピップルームの患者が買い取りたいと言うかも知れませんね、院長。」 「………横流しは規則違反だ。」 「………あ、し、失礼しました!」 「……この最新式は、点滴、排泄、身体の洗浄などすべて自動で安全に行えます。 常に清潔さを保てますし、人件費削減にも繋がるかと………」 「いやぁ、本当に助かります。 最近の若い看護士は排泄物の処理を嫌がるもんでねぇ。」 「そして最後に、」 メーカーの担当者が最新式の作動パネルをいじる。 「まだあるんですか?」 「ええ、試験期間が長引いて、カタログに記載できなかった機能ですが、治療モードの他に、手術モードというものがございます。」 小さな機械音が聞こえる。 俺はさらに耳をそばだてた。 「手術モード?」 「はい。このアームをご覧下さい。」 「何ですか!?これは。」 「手術用アームです。全部で12本あります。 皮膚や血管の切開、切除、縫合などの基本的な術式を精密に行えます。」 「………なんと!!」 「損傷した患部の切断も可能ですし、移植手術、再生治療の機能もあります。」 メーカー側の説明に医師たちがざわめく。 「……、医者の必要ない時代になるんですかねぇ……。」 「いいじゃないか。人件費削減になる!」 「……………、マシンにメスを握らせると言うのかね?」 俺は、そんな病院側のメンツなど興味ない。 ただ、もっと詳しい説明が欲しい。 「………、正直に申し上げますと、我が社の内部でも反対の声がありまして……。ですが、手術モードの全機能、検証テスト済みです。」 「……その検証データは今ありますか?」 「はい、持ってきております。良かったらご覧になりますか?」 「是非、見せて頂こう。」 「では、早速……。」 「ここでは何ですので、よろしければあとは応接室で……。」 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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