業者の作業服。

企業のロゴ入り帽子。


俺は、ちゃんと廃棄予定のカプセルを運搬している業者に見えているだろうか。













カートを押しながら廊下を進む。


途中、談笑している看護士数人とすれ違った。
背中に緊張がはしる。


俺は帽子を目深にかぶって軽く会釈した。
が、見事に無視された。








運搬用エレベーターに乗り込んで2階へ。


2階の廊下に人はあまりいない。


朝食と昼食の間のこの時間帯、医療スタッフはさほど多くは歩いていない。
むしろ、俺のように作業服をまとった業者や清掃員のほうが多い。






俺は冷静にカートを押しながら、片手で端末を弄る。
そして、先ほどセキュリティーシステムに仕掛けた細工を作動させた。
病院の全ての監視カメラを停止させたのだ。



***

俺はプランを作る時に、ロックオンの周囲だけ監視カメラを停止させることも考えた。

だが、それではバレた時にこちらの位置と目的を明らかにしてしまう。

相手に先手をうたれて、出口を封鎖されてしまったらおしまいだ。

だから、あえて病院全体のセキュリティーを麻痺させた。

***






バレるまで、もって5分。


時間は無い。







気持ちは焦るが、不審に思われてはいけない。

不自然に見えないように、何食わぬ顔で細い通路へ入り込む。
この薄暗い通路のつきあたりにロックオンの病室がある。
いつ見ても見舞い客どころかスタッフすらいない陰気な通路だ。




俺は音をたてずに病室のドアを開けた。
相変わらず粗悪な環境だ。

カートを室内に運び込んで一旦ドアを閉め、ロックオンのカプセルに駆け寄った。




安物のカプセルの中で、彼は静かに眠り続けている。







やっと、ここまで来た。

意識が回復していないとは言え、ロックオンは生きている。

やっと、彼を整った治療環境へ連れ出せる。

この、私利私欲に満ちた医師の手から彼を救い出せる。





俺は喜びにうち震えながら、彼の上半身を覆うガラスケースを開けた。









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