*****



3日前、ロックオンを発見した時、俺はこのガラスを開けたいと強く思った。


だが、安物の医療器機だとは言え、ロックオンの回復にほんの少しでも貢献していると思うと、カプセルを開けることが出来なかった。


俺と彼を隔てる薄いガラスがひどく憎らしかった…………







*****









遮っていた古いガラスがスライドして彼の顔がはっきりと現れた。





ガラス越しに見るよりも少し濃いブラウンの前髪。

青白い肌はますます透き通って見える。





やっと、やっと彼に触れることが出来る。








俺は、彼の痩けた頬に手を伸ばした。



そっと指の腹で彼の目尻に触れてみる。



とても低いが、確かに体温を感じた。

命が消えた後の冷たい肉体の感触とは明らかに違う。




少し乾いていたが、その皮膚の滑らかさは幸せだった頃と何一つ変わらない。



親指で彼の薄い唇に触れる。

点滴生活のせいで、柔らかく湿っているはずの薄い皮膚はカラカラに乾いていた。


俺は自分の喉の奥がキュウッと苦しくなるのを感じた。


「ロック、オン」

俺の声は情けなく震えている。
やるせなさが募る。

彼の白い顎に手のひらを添える。










ふと、以前気になった首筋の火傷の跡に気付く。

薄い紫色に変色した其れは胸元へ続いている。
病服に遮られて全体が見えない。


………酷い火傷なのだろうか?

カプセルから出さなければ全身を確認することも出来ない。



とりあえず俺は、ロックオンの上半身の病服をはだけさせようとした。

が、その時、ポケットに入れた端末のバイブレーションが振動した。

俺は、はっとした。






セキュリティーシステムの管理人が監視カメラの異常に気付いたのだ。


俺は、ロックオンに触れられたことに感動して、時間を忘れていた。





端末を確認すると、監視カメラを停止させてから既に4分も経過している。




冷や汗が出る。








だが、焦ってはいけない。


深呼吸して気持ちを落ち着かせる。



セキュリティーシステムには何重も細工してあるため、当分は監視カメラは復旧出来ないはずだ。








急いで安物のカプセルからロックオンを出さなければ。


まず脇の下に腕を差し込んで、頭のほうに引っ張り出す。

旧式のカプセルは下半身がガラスケースで無かったため、今まで彼全身はよく見えなかった。


ロックオンは長袖でつま先まである丈の長いワンピースタイプの病服を着ている。

そのため、カプセルから引っ張り出しても足が見えなかった。






次いで、背中と両膝の下に両膝を差し込んで、抱き上げる。

ロックオンは俺より20センチ以上ある長身だ。
当然、抱きかかえるのは至難の業だと思っていた。

………が、 今の彼は驚くほど軽かった。


俺の腕力でもヒョイと持ち上がった。



力無くだらんと片腕が垂れる。

首筋がバランスを失わなって頭がガクンと落ちないように、俺の胸にもたれ掛からせた。



こんなに軽くなってしまったのか………。









その時、俺の脳裏にふっと、トレミーにいた頃の幸せな記憶が思い出された。









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