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俺は、新しい医療用カプセルに移すためにロックオンを抱きかかえた。



力無く全身の力を預けてくる真っ白な彼は、驚くほど軽かった。


両腕にかかる軽さとは反対に、俺の心は重く沈み込んだ。



なぜ?

やっと彼に触れられたのに?

初めて彼を抱き上げたのに?

初めて彼から全体重を預けられたのに?





*****





トレミーにいた頃、俺は彼の本当の重さを感じたことは一度も無かった。

彼はしばしば俺にもたれ掛かってきた。

だが、全体重をかけてくることは一度も無かった。




彼は大きくて強くて、

重かったから。














「せ〜〜つな〜〜〜!!」

俺の背中にロックオンがもたれかかってくる。

もたれかかる、と言っても、俺のほうが圧倒的に背が低いので覆い被さるような感じだ。




「…………重い。」

「そう言いなさんなって! スキンシップって案外大切だぞ?」


「…………重い。ウザイ、暑苦しい、邪魔だ、俺に触るな、ウザイ。」


「あ、今ウザイって2回言ったな?お兄さんショック〜〜。」

全く傷ついていない明るい声。
ロックオンの長い腕が前にまわってきて、俺の身体を絡めとる。


「……っ、俺に…触れるな!!」


「あれ?せっちゃん耳真っ赤〜〜。」

急に耳元に彼の唇が近づいて、声が甘く低く響いた。

「照れてるのかな?……フフッ、可愛い、刹那。」


耳に彼の唇が触れる。

耳朶を小さく啄まれ、耳殻にそっと熱い舌が絡まる。




「………っっ、………!!」



「感じてくれてるんだ?刹那、耳弱いもんな。」

ロックオンが、俺の耳に熱い息を吹き込むようにしゃべる。

ぞくぞくとした快感が頭のてっぺんへ突き抜けて、俺は全身が震えた。

脳みそがドロドロに溶ける。
背骨の芯が抜き取られたように力が入らない。



へなりとなった俺を、ロックオンの厚い胸が支える。

「やっぱり、今はここら辺が限界かな?せっちゃんウブだから。」


優しく笑って後ろからギュッと抱きしめてくれる。

心地よい重みが背中から伝わってきて、俺は熱い顔を俯けた。



ロックオンはいつだって、全体重を掛けて俺にもたれ掛かったりはしなかった。


俺が潰れないために。

いつも必ず制御して体重を預けてきた。



ロックオンは大きくて強くて、

俺は小さくて弱いから。

















*****





その、あんたがどうして……、

どうして、小さくて弱い俺に軽々と持ち上げられているんだ!?





どうしてこんなにか細くなっているんだ………………!!!!







俺は喉の辺りがギューッと痛むのを感じた。
鼻の奥がツンとする。
















もの思いにふけっていたのは、ほんの一瞬だ。

端末の時計で言うと2、3秒にも満たない。


だが、その一瞬は、俺に昔と現在の差異を見せつけて、俺は十分打ちのめされた。












しかし、落ち込んでいる暇はない。

監視カメラの復旧までは時間があるが、俺の明らかに不審な行動を発見されたら絶対に捕まる。







俺は、軽いロックオンの身体を新しい医療用カプセルまで運んだ。

最新式は、自動で寝台シートを持ち上げて傾けたため、楽に彼を寝かせることが出来た。



寝台シートに積み込んでいた点滴や医療器具の入った袋は、俺が肩に担ぐ。


カプセルのガラス蓋を閉めて、内部の空調を自動調節に切り替える。

最後に、古い梱包材を表面に被せて彼の存在を誤魔化す。












準備は整った。














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