一通り全身の感覚を確めると、刹那はロックオンの肩に毛布をかけた。



「ロックオン、寒くないか?」

「大丈夫だ。十分温かい。」

「喉は?腹は減ってないか?」


ロックオンは、点滴の針の跡が残る腕を見た。

「全然、減ってないんだよな…。今までずっと点滴だったからかな。」

「………そうか。急に胃に食物を入れるべきではないな……、ちょっと待ってろ。」




寝室を出ていった刹那は、すぐにお盆にたくさんのものをのせて戻ってきた。

「最初は水分から、と聞いた。今、飲めそうか?」

ぬるめに温めたドリンクのカップを差し出す。
飲みやすいようにストローが挿してあった。

「ああ。ありがとな、刹那。」



カップを受け取ろうとしたロックオンは、ふといたずらを思い付いた子供のような表情を浮かべた。

「なぁ、刹那。刹那が飲ませてくれよ。」

「はあ!?」

面食らった刹那は、危うくカップを落としそうになった。


「俺、筋肉がだいぶ落ちて身体だるいんだ。刹那が飲ませてくれると、スッゲー嬉しいんだけどな。」







……本来はシャイで甘え下手な刹那。
だが、病人の自分を気遣って、やたらと甲斐甲斐しく付き添ってくれる……。

寂しかった反動もあって珍しく甘えん坊な刹那が、ロックオンは可愛くて仕方がなかった。

身体の衰えは嘘ではないが、自分でカップを持てないほど筋肉も落ちていない。
病人という立場を理由に、刹那から「はい、あーん」をされたいだけ。

刹那にナース服を着せたいという野望をひそかに持っていたロックオンは、わざとらしく咳こんだ。

「あー、喉渇いて死にそう…。せつな、ダメか?」

刹那がカップを持ってくれて自分はそれをストローで飲む……
古典的なバカップル像を思い描き、ロックオンは胸を踊らせた。





「……確かに、4ヶ月も寝たきりだったら、顔の筋肉も衰えるだろうな。」

「そうなんだよ。腕がだるくてカップ持てな……って、顔の筋肉?」

「了解した、ロックオン。」


突然、刹那はドリンクを口に含んだかと思うと、ロックオンに深く口付けた。

熱い舌がロックオンの歯列をなぞり、舌を絡め取る。

「んっ……!?」

自分の口内に導くように舌を吸われると、頬に溜め込んだ生ぬるいドリンクを、少しずつ喉に流し込まれた。



……ああ、そうだった。そう言えば、俺が目覚めた時も、刹那がこうやって水を飲ませてくれたんだった……。


刹那の長いまつ毛を至近距離でぼんやりと見つめながら、ロックオンは考える。


こくん、こくんとロックオンの喉仏が動く。

キスの息苦しさは全く無かったが、ロックオンは心臓がどうかなってしまいそうだった。



「………よし。」

ようやく口を離した刹那が、満足気にうなずく。

「……どうした?ロックオン。」

「………いや、別に。」


情けなくも真っ赤になっているであろう顔を、布団にもぐって隠した。












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