彼の瞳がこの星を映しているのか、

この星が彼の瞳を映しているのか。


もし、後者だとしたら、この大地はこんなには歪まなかっただろうに……。














刹那が修繕したエクシアは、無事に大気圏を突破出来た。


太平洋上空を飛行しながら、刹那は進路を西に向けた。


コンテナのある孤島では安定した電力は確保出来ないかもしれない。

いざという時に頼れる医療施設もない。


東京へ行こう。
あの都市は医療技術が進んでいるし、俺の隠れ家もある。

肩の痛みに耐えながら、刹那はエクシアの速度をあげた。









久々に降り立った東京は、ちょうど新年を迎えたばかりの冬だった。


真冬の厚い雲に覆われた午前。

正月休みを終え、開店し始めた商店が静かに活気づく。

くたびれたしめ飾りが、まだ冷たい風に晒されている。











とりあえず、刹那はエクシアを外部迷彩皮膜で隠して、東京の隠れ家を覗いた。


……しかし、その部屋にはすでに他人が住み着いていた。

手際の良い王留美のことだ。
連絡のない刹那を用済みと判断し、刹那の部屋を別の誰かに貸し与えたのだろう。


刹那がマンションの付近を歩いていると、一般人とは思えない者を数人見つけた。


王留美の配下のエージェントだろうか……。

もしくはソレスタルビーイングを嗅ぎ回っている軍人かもしれない。


いずれにせよ、この辺りでは、ロックオンを安全に治療出来ない。

もう東京には居られない。







……幸い、刹那が別名義で分散して貯金していた財産はほとんど無事だった。

ATMで全てを回収して、いったんエクシアに戻る。



ロックオンの治療は順調に続けられている。

カプセルのバッテリーにもまだ余裕があるが、なるべく早く、電力の供給出来る場所を見つけたい。

静かで安全な場所。

いざという時の医療施設が充実していて、気候が温厚な場所。


都心から離れすぎては、宇宙の動向が掴めなくなるので、出来れば関東で……。


刹那は、地元のネットワークやニュース番組で情報を収集することにした。












狭いコックピット内に響くのは、ロックオンのカプセルの稼働音と端末から流れるニュース。


肩の撃たれた傷がズキリと傷む。
幸い、掠っただけで、致命傷ではない。

だが、痛みを長時間こらえ続けていた為、刹那は精神的にギリギリの状態だった。


「……関東北部や東北地方では、厳しい冷え込みとなります。十分暖かくしてお出かけ下さい。……」


気象予報士の声を聞きながら、包帯で傷口をきつく縛る。


「……関東南部、及び九州地方は、最高気温度最低気温ともに平年並みの暖かい陽気となるでしょう。続いて、風と波の予想図です……」




ふと気になって、刹那は気象庁のホームページにアクセスする。

経済特区東京と、旧日本全域の年間の気候を調べた。



………やはり。

関東地域は北部と南部で激しい気温の差がある。


よく見ると、関東南部、特に房総半島の緯度は、九州地方と変わらない。
気候も温暖なようだ。



地図を確認すると、森林や田畑が目立つ。

24世紀だと言うのに、結局あまり開発は進まなかったようだ。



刹那は、病院施設が近くに充実しており、交通の便も良い田舎地方をピックアップした。

エクシアのナビゲーションでは、この都心からエクシアで10分、自動車でも1時間、という格好の地域だ。






刹那はエクシアを外部迷彩皮膜のまま、発進させた。







1月の日暮れは早い。

午後遅くなる前までに、落ち着けるところを見つけたい。


傷む肩をぐっと縛って、刹那はエクシアの速度をあげた。








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