ロックオンがカプセルに入ってから2週間。
この家に入居してから13日目の深夜。


「っあ゛………!!!」


刹那は肩に走る激痛で目を覚ました。

薄いシングルベッドをギシッと軋ませて起き上がる。


「……血?」

チュニックの肩の部分に血がにじんでいた。

ロックオンをコロニーの病院から救出する際に撃たれた痕だ。






痛みをこらえて洗面所に向かう。

服を脱いで鏡を見ると、傷口が開いて化膿しかけていた。


「…ふさがったと思っていたんだが…。」







あの時、追っ手が放った銃弾がロックオンのカプセルに当たりそうになり、刹那はとっさにカプセルに覆い被さった。

銃弾は刹那の肩をかすめてエクシアの座席シートにめり込んだ。

脱出後、一応自分で止血と消毒はしたのだが……。


刹那は痛みに顔をしかめながら軟膏を塗り、ガーゼで傷口を覆った。

その時、


――ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ

真夜中の静かな家の中にアラームが鳴り響いた。


「…ロックオンッ!!?」



カプセルのアラームだ。

刹那は以前、ロックオンの脳波に変動があった時に鳴るように設定していた。

……まさか、彼の呼吸器に異常が!?

不吉な予感が頭をよぎる。

とっさに洗面所を飛び出して寝室に駆け込んだ。








「ロックオンッ!!」

カプセルのガラスを開けて彼の額に触れる。
しかし、見たかぎりでは彼に変化はうかがえない。
今まで通り、静かに眠り続けていた。



刹那は脳波のモニターを見た。

今までずっと深いところで沈んでいたグラフ値が、不規則に変動しているのが分かる。



「ロックオンッ!!」


刹那は彼の手を握りしめて名を呼んだ。

「ロックオンッ、起きてくれ!」


ぴくり、と彼の指が動くのを感じた。
嬉しさや期待感が胸にこみ上げ、喉がカラカラに渇いていく。


「っ……!!、ロックオンッ!目を覚ましてくれっ!、ロックオンッ!」

刹那は懸命に名を叫ぶ。

「ロックオン!俺だ、刹那だ。ロックオン!起きてくれ!ロックッ!!!!!」

彼の白い頬に片手を添え、もう一方の手ではぎゅっと握りしめる。

刹那は必死で呼びかけ続けた。

「ロックッ!!起きてっ……起きてくれ、ロックッ!!」







ふわっ、と彼の長く生え揃ったキャラメル色の睫毛が揺れた。

もうほとんど癒えかけた傷跡が残る目蓋がぴくりと動く。


「っっ……!!!、ロック、ロックッ!!」


あらゆる感情がこみ上げてきて、胸がいっぱいになる。

刹那は震える声でひたすら叫んだ。



うっすらと両まぶたが開いた。

伏せられた睫毛の隙間から、キラキラと輝く碧翠の宝石が覗く。


「っ……ロッ、ク…、」


部屋の照明を反射してきらめくその瞳。

しばらくぼんやりと天井を映していたが、やがて焦点が定まって刹那の姿をとらえた。


「っ、っ……ろ、……っく………」


言葉にならない声をあげ、刹那が震える指で彼の目じりに恐る恐る触れる。

すると、ロックオンの唇が微かに動いた。


「………?……何、どうした?ロックオン。」

あわてて耳をすませるが、わすがに喉から息の洩れる音しか聞こえない。

「?………っ!!!」


今まで3ヶ月間ずっと点滴で命を繋いできたロックオン。

最新式医療用カプセルは湿度を保てるが、それでも彼の口内や舌や声帯は、カラカラに渇いているのだろう。


「………!!ロッ、ロックオン、ちょっと待ってろ!」



刹那はキッチンに駆け込むとミネラルウォーターのボトルを取って、寝室に戻った。
激しく開けたドアが肩の傷口に当たったが、全く痛みは気にならなかった。



刹那は急いでボトルから一口水を含むと、少しの間口の中で水を転がし適温にする。

ロックオンの視線が自分の動向をとらえているのを確認して、渇いた唇に口付けた。




舌を慎重に差し入れ、頬に溜めた生ぬるい水を少しずつ彼の口内へ流し込む。

渇いて縮こまった彼の舌をそっと絡めとっつ手前に引き出し、すみずみまで潤す。

喉の奥まで水分を誘導すると、彼の鼻の穴から空気が洩れるのが分かった。




いったん舌を引き抜き唇を離す。

ぎこちなく彼の白い喉仏が動く。

無事に咽下出来たのを確認して、彼の顔を伺い見る。





今まで毎晩夢に見た彼の宝石のような瞳。

この輝きを目にすることを、どれだけ待ち望んできただろう…。


さっきからずっとこみ上げていた、ありとあらゆる感情が胸を押し潰さんばかりにキュウキュウと締め付ける。



「……ろっ、…く………」

何とか一言だけ絞り出して、震える指で彼の潤った唇に触れた。






彼の薄い唇が動いた。


「…………せつな。」






優しい、ロックオンの声。


弱々しく掠れてはいるけれど、確かに彼独特のとろけるような甘さを含んだ響き。



「………ろっ……、」



すうっと碧翠が細められ、彼は優しく微笑んだ。

「…刹那、なんて顔してんだよ。」



からかうような、でも温かい優しい優しいロックオンの声。

今まで何回、いや、何千回この声を聞きたいと思ったことだろう。


胸を破裂させんばかりに溜まった思いが、堰を切ったように溢れ出した。







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