……もう一度だけ、あと一度だけでもあの碧翠を見ることが出来るなら……、



俺は死んでもかまわない。









何度そう強く願ったことだろう。

そして、その願いは聞き届けられた。

今まさにこの目の前で、待ち望んだ彼の瞳が輝いている。

恋焦がれた彼の優しい微笑みが見ることが出来る。


――なのに、涙が滲んできて視界を邪魔する。

鼻の奥がツンと痛み、幸せなのに、嬉しくてたまらないはずなのに、胸の奥が叫びだしたいほどにキュウキュウ痛い……。







ロックオンの右手を掴んだ刹那の左手。

激しく震えるその手を、ロックオンは確かな強さで握り返した。



「……刹那、」


彼の左手がゆっくりと持ち上がって、刹那の目じりに触れた。

刹那は大きな目をさらに大きく見開いて、涙を溢さないように唇を噛み締めた。


「……刹那、どうしたんだよ。」


「……ろっ、……んっ」

口を開けば嗚咽が漏れて言葉にならない。




「……刹那、泣いて。泣いていいよ。」

彼の綺麗な指先が、涙を溜め込んで限界を越えた刹那の目元をクッと押した。

途端にボロボロと零れ落ちる特大サイズの涙。



「…ッヒ…クッ、……んっ、…ろっ……んっ」


「……どうした?、刹那。」




刹那は身体中ぶるぶる震わせ、まともにロックオンの名すら呼べず、涙を零す。

それでも、ほんの少しでも視線をロックオンからそらせることはない。

涙でぐしゃぐしゃの紅玉を必死に見開いて、ロックオンの瞳を見つめ続けていた。


「んっ、…ッ……ッヒ、……ろっ、くッ……ッヒ……ろっ……んっ…」

「……ごめんな、刹那。」

「ッヒ……なん、でっ、……あやまるんだ?……んっ!!」




ロックオンは弱々しく苦笑する。


「……あのさ、俺、まだ生きてるんだよな?」

「いっ、生きてるっ!!!……傷もっ、だい、ぶ、回復しているっ!!!」

「………そっ、か…。」



刹那の剣幕に少し目を大きく見開きながら、ロックオンはふぅっと息を吐いた。



「……俺、死んだと思ったんだ。父さんと母さんとエイミーの仇打ちのつもりだった……」


ロックオンはゆっくりと目蓋を閉じ、そして再び開けた。


「こんなに可愛い刹那を置いて先に逝くなんて、最低だよな。」

自嘲気味に口もとを歪める。

「恋人失格だ。」

「そんなこと、ないっ!」

刹那は噛みつくように叫んだ。

「…俺だって、ロックオンが負傷しているのに、反対を押し切って地上に降りた…、ロッ、ロックオンを爆発から助けられなかったっ…!!」


嗚咽で激しく肩を震わせながら、刹那は言葉を吐き出す。


「…俺がっ、俺があと10秒早く着いていたら…、ロックオンはこんな怪我しなかったっ…、謝るべきなのは、俺の、ほう、だ………」

ひどく苦しそうに噛み締められた唇を、ロックオンの指がそっと制す。

唇を緩く開けると、刹那の細いうなじに大きな手の平が寄せられた。


「……刹那、おいで。」


首の後ろをつかむようにしてロックオンの胸元に引き寄せられる。

刹那は崩れるようにロックオンの胸元にすがり付いた。



「うっ…、ロッ、ロック……、…俺が…、俺が……っ!!!」

「ごめんな、刹那。」

「……俺こそっ、ごめ……うっうぁああああああああああああああああぁ」



刹那は声をあげて泣いた。

まるで幼な子のようにロックオンにしがみついて、泣いた。



「ごめんな、刹那。本当に、ごめん。」


ロックオンはカプセルの寝台に寝たまま、謝り続ける。

刹那はボロボロと涙を流しながら、頭を撫でるロックオンの手の優しさに酔いしれた。









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