「ごめんな、刹那。」


彼の声が胸に染み込む。

自分の頭を優しく撫でる大きな手が、張りつめていた神経をほぐしていく……。







刹那の瞳はいつまでもボロボロと涙を流し続けた。

嗚咽がやんでも、身体の震えが止まっても、底なしのタンクのように大量の水滴を生み出す。

すがり付いたロックオンの胸元は、ぐっしょりと濡れていた。



「……刹那、辛い思いさせたな。」

長い指先が、すうっと一滴の雫をすくい取る。



その時、ハッと刹那は起き上がった。

「ロックオン、気分は悪くないか!?」


いまだに流れ続ける涙をゴシゴシとぬぐい、自分の涙で濡れた彼のバスローブをあわてて拭き取る。


「寒くはないか!?重力酔いは!?」

「…あ、ああ……、なんともないぞ。」

「右目は!?…これは何本に見える!?」


ロックオンの左目を覆い、顔の前に指をかざす。

「三本。」

「じゃあ、これは?」

「おいおい、ゼロ本じゃねえか。大丈夫だよ、刹那。ちゃんと見えてる。嘘じゃない。」


ロックオンはアハハ、と笑う。

「本当か?かすんでいたり白黒だったりしていないか?」

「大丈夫だ。視界は完全に正常だ。さて、起きるか。」


ロックオンは肘に力を入れて上半身を起こそうとした。
しかし、約4ヶ月間全く使わなかった筋肉はすっかり衰えていた。
頭を持ち上げることさえ出来ず、バランスを崩す。

刹那はふわりとその頭を支えた。


「無理をするな。あんたは長い間眠っていたんだ。」

「……長い間って…、どれくらいだ?」

「爆発に巻き込まれてから、4ヶ月経つ。」

「っ……!?」


ロックオンは一瞬目を見開いたが、すぐに現実を受け入れた。

「……そうか。………刹那、ここは宇宙じゃないな?重力がある。」

「ああ。地上だ。東京のマンションは危険だったから、南関東エリアの田舎の一軒家を購入した。」

「……あれから何があったか、話してくれるか?」






刹那は、この4ヶ月間のことをかいつまんで説明した。

爆発の後、ロックオンを見付けられなかったこと。
最終決戦でアルバトーレの攻撃を受けたこと。
ソレスタルビーイングは壊滅状態だと言う連絡があったこと。
大破したエクシアを修繕し、コロニーの病院でロックオンを発見したこと。
最新式の医療カプセルを奪って地上に降りたこと……。




ロックオンは、刹那の話を静かに聞いていた。

小さく頷きながらしばらく黙っていたが、ふと口を開いた。


「エクシア、大破したんだろ?刹那の怪我は大丈夫なのか?」


刹那は内心ハッとした。

彼を庇って撃たれた傷跡。
化膿して傷口が開き、激痛で目が覚めた。だが、ロックオンの意識の回復で喜んですっかり忘れていた。
幸い、服に染みだした血の跡は拭き取っていたのでロックオンには気づかれていない。

だがロックオンが知ったら、余計に辛い思いをするだろう。
無駄な心配はかけたくない……。


「大丈夫だ。エクシアの修繕をしている間に完治した。」

得意のポーカーフェイスにちょっぴり笑顔もプラスする。

「それより、あんたはどうなんだ?ずっと意識が無かったんだ。急に起きてこんなに会話して……、疲れていないか?」

「平気だよ。刹那こそ、少し休みなさい。」


泣きはらした目蓋にそっと触れる。


「刹那、少し痩せたな。」

「………そうか?」

「ああ。この4ヶ月間、いろいろ大変だったんだな。ごくろうさん。」


再び優しく髪をすかれ、睡魔が忍び寄る。


だが、刹那は眠りたくなかった。
やっと彼が目覚めたのに自分が眠るだなんて、あまりにも もったいなさ過ぎる気がした。


「どうした、刹那?今、真夜中だろ?早くベッドに戻れよ。」

「いや、俺はいい。」


ふるふると首を振る。


「ロックオンこそ、休んでくれ。カプセルの中は狭くないか?」

「んー、ちょっと窮屈かな。」

「だったら、ベッドに移るか?ロックオン用に大きなベッドを買ったんだ。」


部屋の反対側に安置しているキングサイズの高価なベッド。

刹那が指差すと、ロックオンは目を丸くした。


「こりゃまた、たいそうなベッドだな。」

「あっちの方が眠りやすいかもしれない。少し、抱えるぞ。」


刹那はロックオンの背中と膝の裏に腕を差し込むと、ぐっと抱え上げた。


「お、おい、刹那!?」

自分よりはるかに体格の小さい子供に姫抱きにされ、ロックオンはおろおろと動揺する。


「重いだろ!?そのくらいの距離、自分で…」

「何を言っているんだ。あんたは自分で起き上がれないほど衰弱しているんだ。体重もかなり落ちている。」

「でも…」

「あんたが元通りに回復するまで、俺が看病するからな。迷惑だと言っても、無理やりにでもするからな。」

「そんな、迷惑だなんて…」



ふわふわのベッドにそっとロックオンの長身を横たえる。

新品の毛布と羽布団をしっかりと首元まで掛け、枕を整える。


「気分、悪くないか?」

「……すごいベッドだな。とても気持ち良いぞ。」

「……そうか。」

「刹那が俺のためにわざわざ買ってくれたんだろ?ありがとな。」

不意に、ロックオンは少しだけ首を浮かせて刹那に口付けた。

ちょん、と触れるだけの、ついばむようなキス。

「っ………!?」

「お礼、だ。」



驚いて口を手で覆う刹那を見て、ロックオンはニカッと笑った。








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