何ヵ月ぶりだろう……、ロックオンからキスをされるのは。



ロックオンの唇が、刹那の唇をかすめた。
その一瞬に感じとったわずかな彼の体温。

刹那は唐突なキスの後、唇を手で押さえて茫然として立ち尽くしていた。



「刹那?」

ベッドに横たわったロックオンが、刹那の顔を覗き込む。



不意に、刹那の瞳から再びボロボロと涙がこぼれ始めた。

「なっ………!?」

刹那は驚いて涙をぬぐう。

「…どう、して……。さっき、あんなに、泣いたのにぃ…。」


不本意な涙に動揺しながら泣きじゃくる愛し子。
今まで溜め込んでいたものが決壊して、ぬぐってもぬぐっても涙が止まらない。







ロックオンは、枕を台にして自力で上半身をベッドから起こした。

「刹那、」


突っ立ったまま涙を流し続ける子供に呼びかける。


「おいで。」



ポンポンと布団を叩くと、泣きながら刹那はベッドをよじ登った。


「ほら、もっと近くに寄って。」

促すと、もぞもぞとロックオンのそばにすり寄り、ペタンと座り込んだ。

ロックオンの長い指が刹那の顎を優しく捉える。

刹那はぐしゃぐしゃに濡れた睫毛を伏せた。

どちらともなく自然に顔を寄せ、再び唇が触れ合う。







舌を使うわけでも、互いの呼吸を貪るわけでもない、触れるだけの拙いキス。

「ごめんな、こんなに泣かせて。」

頬をつたう涙をそっと吸い取る。

「刹那、ありがとな。」


再び唇を寄せる。

互いの体温に酔いしれ、弱く押し付ける。






二人は繰り返し唇を重ねた。

だが、刹那は決して唇を開こうとはしなかった。
長い眠りから覚めたばかりのロックオンを気遣って、決して深い口付けはしなかった。

何の官能も伴わない、だが蕩けるように甘いキスを繰り返す。

失われた蜜月を取り戻そうとするかのように何度も何度も。








「……刹那。寂しい思い、させたな。」


額をコツンと重ねて、ロックオンがささやく。

「ごめんな。もう、離れないから……。」

「……ほんとだ、バカロック。」

「ずっと一緒にいような。」

「…当たり前だ。」





ロックオンの広い胸に顔を擦りつけて、肺いっぱいに息を吸う。
微かに香る彼の匂い。
目を閉じて、身体中の感覚を研ぎ澄ませて彼を感じる。





「えらく甘えん坊だな、刹那。」

ロックオンはふわりと羽布団を掴むと、刹那の細い身体を包みこんだ。


「っ……だめだ、ロック! 俺のベッドはあっちだ。ロックオンはこのベッドでゆっくり…」

「なに水くさいこと言ってんだよ。ずっと一緒だって、さっき約束したばかりだろ?」

「でもロックオンは病人で…」

「ほら、グダグダ言ってないでちゃんと布団に入りなさい。」

「でも……」

暖かくて柔らかいベッドの中に引き込まれる。

「刹那は暖かいからな、湯タンポ代わりだ。」

「う゛ーー…」

華やかな笑顔。
ついに折れた刹那は、目から上だけ出して布団に潜り込んだ。






ロックオンの長い腕が刹那をぐっと引き寄せる。

「何遠慮してんだよ、こんなに広いベッドだと、離れてちゃ寒いだろ?」

同じ枕に二つ頭を並べ、彼に抱きしめられながら横になった。






心地よい暖かさと布団の柔らかさで、あっという間に目蓋が重くなってくる。





「よしよし、いい子だ、刹那。」

背中にまわっている彼の左手が、ポンポンと心地よい振動を伝える。

「あれだけ泣いたんだ、疲れてるだろ?今日はもうお休み。」

「……ロック、明日もちゃんと目覚めるか?」


一秒でも長くロックオンを目に焼き付けようと、刹那は目蓋をこじ開ける。


「ああ。ちゃんと目覚めるさ。もう二度と、刹那を置いて眠りこんだりはしない。約束するよ。」


くたっと刹那の身体から力が抜ける。


「……まだ、はなしたいことがたくさん…あるんだ……」

「そうだな。俺も聞きたいことがたくさんある。」

「…このいえも、ちゃんとみせたい……。…カーテンもテーブルクロスも、…あんたのすきな………みどりいろ……だ…………」

すうっと瞳が閉じられる。


「……ああ、また明日な。」


額にそっと口付けて呟いた言葉は、夢の世界の住人には届かなかった。











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