東京郊外、のどかなこの南関東では、旬の食材がいつでも手にはいる。 ロックオンに少しでも新鮮な食事を作ろうと、刹那はできるだけ毎日買い出しに行くようにしていた。 真っ先に買い物かごに必ず入れるのは、1袋のじゃがいもと牛乳を1パック。 帰りがけには必ず古本屋に寄り、ロックオンのために数冊選ぶのがひそかな楽しみだった。 住宅地と田畑が混在する街並み。 中古車のショップで買ったバンで、のどかな農道を走っていく。 1月も末。 まだ風は冷たいが、だいぶ日差しは暖かくなってきた。 ふと、畑に何かを植えている老人が目にとまった。 よく見ると、芋のようなものを土に埋めている。 車を停めてついじっと見ていたので、手を休めた老人と目が合ってしまった。 軽く頭を下げて通り過ぎようとすると、老人が近付いて来た。 「ボウズ、学校は?」 「あ、いや……、俺、中卒なので。」 「ほお、それで働いているのか。感心感心。」 薄汚いバンを見て、何かの作業員だと思ったのだろう。 親しげに笑いかけてきた。 「今植えるとな、梅雨前には春じゃがが採れるんじゃよ。」 「………その芋は食べられないのか?」 「食べてみるか?死ぬぞ?」 ぽいっと1つ投げられて、刹那はぎょっとした。 「ハハハ、死にゃせんが、これは種イモでな。芽が出かけているからもう食えんよ。」 「……種イモ……。」 「ボウズの家に庭はあるか?」 「……はあ、一応……。」 家の中の改装は完璧だが、庭は何も手をつけていない。 「なら、植えてみろ。ほれ、」 ぼとぼとと10個ほどの種イモを手渡される。 「………え…、いいのか?」 「構わんよ。あとメークインを400、男爵を300植えにゃならんからな。」 老人の乗ってきたものと思われるトラックには、ネットに入った種イモが山積みにされている。 「………メークイン?」 聞き覚えのある名前だ。 確かスーパーで見た気がする。 「ああ。その細長い芋がメークイン。煮崩れしにくい。……で、こっちが男爵芋。」 まるっこい方のじゃがいもはいつも刹那が買っているものと同じだ。 この前アイリッシュシチューを作った時、ボロボロと煮崩れしてしまったのだった。 それでもロックオンは、美味しい美味しいと言って食べてくれたが。 そうか、じゃがいもにもいろいろ種類があったのか、と刹那は納得する。 「春には白い花も咲く。地味だがなかなか綺麗じゃよ。」 「……了解した。植えてみる。」 心優しい老人に、ありがとう と刹那は頭を下げた。 原料から作るというのもなかなか良いかもしれない。 きっとロックオンは喜んでくれるはずだ。 刹那は両腕に抱えた種イモを、丁重にバンに積み込んだ。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |