グリモア オブ アルビノ(小説館)

東方幻想福音録
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episode01―――恋色マスタースパーク―――

これは、人間に恋い焦がれた悲しい妖怪の話だ。
最初に言っておくが、これは決して冗談で軽々しく人に語っちゃいけない。
もしもこの禁を破って軽い気持ちでこの話をして"とある妖怪"に襲われたなら、私は責任を負わないからな。
それじゃあ、始めるぜ…?

あれは蝉の鳴く夕暮れ時の事だった。
その日はとてつもなく暑かったから、私は霊夢と一緒に妖怪の山の川で涼んでいたんだ。
だが、それは私にとっては蒸し暑さにまして退屈な事だった。
私の名は「霧雨魔理沙」。普通の魔法使いだ。

「なぁ、霊夢。幸せってなんだろうな?」
余りの退屈さに物思いにふけっていた私は、霊夢に問いをかけてみた。でも、その問に対する返答は単純なものだった。
「さぁね。……そんなおめでたいものが、この幻想郷に在るのかしら?まぁ、私にとっては異変解決の後の宴会で騒いでいるあなたたちの様子を見ている時が一番幸せだけど…あなたはどう思うの?幸せってなんなの?」
「なにって……」
……絶句だ。

私はこういう空気はあまり得意じゃない。得意じゃないが、だからといって特に嫌う理由もなかった。
「まったく…問いを問いで返すなよな……」
私は少しふてくされながら、日も落ちてきたからそろそろ帰ろうと、立ち上がって靴を穿いていた。
それに続いて霊夢も足を布で拭き取り、足袋を穿いて立ち上がった。
「待って。」
不意に立ち止まる霊夢。さっきまでの表情とは一転、険しい顔つきをしたまま目を綴じている。
「どうしたってんだ?用事が無いなら私は帰らせてもらうぜ?」
ふてくされた調子のまま、私は霊夢に返答を返した。霊夢は一言、「そう。なら、くれぐれも気を付けなさいね。」とだけ言うと、どこかへ飛び出していった。

「なんだ、アイツ…。」
私はよくわからない、といった表情のまま、歩いて山を降りようとした。
その時、今まで何ともなかった川の音が変わった事に気付いた。
「あ?なんだよ…これ…」
川は立ち尽くす私の問に答えるように、波のような濁流となって私の前に押し寄せた。
途中、岩や木に掴まろうと必死にもがいたが、流れが強すぎて水に浮くのが精一杯だった。
次第に意識が遠退いていき、ここで死ぬんじゃないかと思ったが、案の定、川の濁流を大量に飲み込んだ私は遂には意識を失ってしまった。
意識の彼方をさまよううちに、昔の記憶が頭の中を駆け巡った。これが走馬灯ってヤツなんだろう。
そのなかに、幼い頃の霊夢の姿があった。

幼い頃、"霧雨店"の娘として育った私は里の人間たちとは合わず(会わず)、いつも家のなかで稀に入荷される魔法の品を眺めていた。
その頃いつも店にやってくる森近霖之助は、そうして魔法の品を眺めるうちに魔法に興味をもった私を気にかけてくれていたようで、「もしも魔法の事で興味があるようなら、僕の店においで」と声をかけてくれたものだ。
霖之助から誘いを受けた私は、次の日から霖之助の経営する「香霖堂」に毎日通った。
その時貰ったのが私の相棒、「八卦炉」だった。

霖之助に使い方を教わるうちに、それは2、3日も経たないうちにすぐに板に付いていた。
八卦炉は魔法の力で火をくべる便利な道具だと聞いたが、私はすぐにもっと実践的な使い方を考え、実践してみた。
魔法の森の入口。香霖堂の裏にある大きな一本の木。
それに向かって、八卦炉から大きな放射状のエネルギーを放出するイメージを連想して一気に魔法の力を込める。
大きな発動音と共に極太の熱線が飛び出し、目の前の木々を凪ぎ払う。
そう、恋符「マスタースパーク」だ。
物音に驚いて香霖堂から出てきた霖之助は驚いて2週間くらい、腰を抜かしたっけな。

家に帰ると、よくオヤジに叱られたものだ。
霖之助の前ではいい顔をしているが、「あれ(霖之助)は妖怪と人の間に生まれた異形の者。お前は妖怪の子にたぶらかされているんだ。頼むからあれと会うのはやめてくれ。」ってな。
その時カチンときた私は、店に置かれた数少ない魔法の品を全部持ち出して、「魔法の道具を扱ってない店に用なんかないんだよ!」と言い放って実家を飛び出したんだ。
それ以来、実家には顔を出していない。
私はそれから、霖之助の手を借りて香霖堂の近くに小さな小屋を作って暮らした。

ある日の事だ。いつものように魔法の森で茸を採っていると、木々の一角に光の射し方が不自然な場所があった。
その場所に向かって歩いて行くと、そこは森を抜けた先にある、古ぼけた神社だった。
森を出ることは滅多に無かった私にとって、それはあまりにも新鮮だった。
その時初めて会ったのが、境内で遊んでいた霊夢だった。まだ幼かった私と霊夢は、周りからすれば少し人見知り気味に見えていたかもしれないが、それでも少しづつ距離を縮めていき、いつの間にか親友や幼馴染みのような関係になっていた。私は、霊夢が時々見せる笑顔が大好きだったんだ。
あぁ、霊夢に会いたい。会って昔のようにじゃれあいをするのも悪くないな。でも、昔の霊夢がだんだん遠くなっていく気がして……
霊夢…霊夢……霊夢………!

「霊夢!!」
気付くと私は水の音がする場所に倒れていた。気を失っていたらしい。
「あ!気付きました?よかった!」
聞き慣れない声のする方向に目を向けると、青い服に帽子を被って緑色のリュックを背負った河童だった。
「お前は……」
言いかけた所に、その河童は口を挟んだ。
「全身びしょぬれで倒れていたので、看病してあげました。私は河童のエンジニア、河城にとり。そしてようこそ、"河童の国"へ!」
「河童の…国、だって……!?」
「はい」
「信じられないな……」
私はにわかに信じられなかった。だってそうだろう?幻想郷広しといえど、河童の国なんて聞いたことがない。
しかし、私は驚きと共に一抹の不安を感じていた。
河童は人間の"しりこだま"を抜き取ると聞いていたからだ。でも、実際は私も"しりこだま"の事は知らないし、話に聞いただけで、その実態は明らかになっていないからだ。
「あの…さ、お前も喰うのか?その……"しりこだま"ってヤツをさ。」
にとりは少し驚いて私を見つめてから、こう返事をした。
「あぁ、あれは河童の間で今流行っている"おつまみ"なんです。不味いので私は食べません。」
「なんだ…不味いのか……。」
ともあれ、少し安心した私は少し河童の国を見て回る事にした。
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